第二十話           「クロウの過去」
フェイン「良かった……本当に……」
さっきからその繰り返しだ。死んだと思っていた大切な人が生きていたのだ。
フェイン「しかし何故生き延びることが出来たんだ。」
セリア「それはお兄ちゃんが応急手当をしてくれたから。それとここの医療が優れていたから。」
フェイン「本当に?」
クロウ「それは俺も太鼓判を押す。ここの医療が優れていなかったらそして……」
クロウが一呼吸おいて次の言葉をこう続けた。
クロウ「セリアが俺を見つけていなければ間違いなく俺は死んでいた。」
フェイン「じゃあお前を助けた娘って……」
クロウ「セリアのことだ。」
次に言う言葉をフェインは見つけられなかった。
クロウ「まあ四年ぶりに会ったんだから、兄妹水入らずで話したいこともあるだろ?俺は別の所に居るとするよ。」
アーク「俺もそうするとするか。」
セリア「待って。」
セリアが二人を呼び止めた。
セリア「いやその私が話す事に二人の話を交えたほうがいいのじゃないかと思って……。」
クロウ「そうか……。だったら俺の話を先にした方がいいか。」
セリア「そうね。」








――二年前――
俺が義勇軍に所属してから一年が経っていた。
そして任務の為にとある町に来ていた。
師匠に外の世界を見て来いと言われ下山したが、なぜあんな事を言ったのかが解らなかった。
ただただ任務をこなすのみ。それだけで良いのか。乱世は終息するのか。そんな事は、無い。



夜、暗殺相手が歩いてくる。斬った。ただその繰り返し。それで本当に良いのか。
そんな事を考えている内に異変を察知した兵が来た。逃げた。下っ端兵卒は殺す必要はないからだ。

翌日、次の人物の暗殺依頼が来た。何でも戦闘指南役を斬れ、ということだ。この一年で二百に近い件数の暗殺をした。血の臭いから離れられなくなっていく。そういうものだ、と思った


指南役「貴様か。最近暗殺される奴が多いと聞いてな。ここで貴様を殺す!!」
刃と刃がぶつかり合う。戦う。そして……





相討ち?いやこっちの方がやや浅い。
指南役「お…のれ」
バタッ
倒れた。こちらの方が浅いとはいえかなりの深手だった。この町の医者は利用できない。少なくともここにはいれない。なら

ばひっそり山奥で……。


歩いて行った山の中で敵に見つかった。川に飛び込んで逃げた。
暫く流れた後岸に上がったが立てなかった。血を、失い過ぎた。


視界が、ぼやけていく。これが死というものかと思った。声が、聞こえる。しかし意識が遠のき目の前が暗くなった。










目を開けた。ここは何処だ?俺は死んだのではなかったのか。誰か一人。女の子が立っていた
セリア「あっ気が付いた?」
クロウ「君は一体…」
起きようとした。しかし動けない。少々貧血気味だった。
セリア「あっ、まだ起きちゃ駄目。かなりの深手だったんだから……。」
もう一度寝直す。声に聞き覚えがある。
クロウ「もしかして君が助けてくれたのか?」
セリア「えっ?そうだけど……それがどうかしましたか?」
クロウ「いや、気になっただけだ。」



それから三日は絶対安静だった。
名前も知らない女の子に助けられた。それが不思議だった。それに恐らく俺より年下だ。どうやって村まで運んできたという

のだ?
クロウ「まあいいか………。」
傷が治りかけてきた。刀は……あった。俺の寝ている隣に。起きる事は出来た。しかしまだろくに歩けなかった。まあ……あ

れだけの深手だったのだから命が助かっただけでも良しとしようか。
女の子が入ってきた。
セリア「もう起きることができるんですか?凄い……えっと……。」
そういえばお互い名前も知らないんだった。
クロウ「自己紹介がまだだったな。俺はクロウ、っていう名前なんだ。」
セリア「私はセリア、っていう名前です。」
クロウ「そうか……とりあえず、助けてくれてありがとう。」
セリア「どういたしまして。」
クロウ「そういえば聞き忘れていたがここは一体どこなんだ?」
セリア「ここは『妖精の森』っていう所なんです。その中の私の家の中。」
クロウ「森……道理で空気がいいはずだよ。そして心が落着き洗われるような気がする。いい場所だな。」
密偵の血生臭い空気から暫く離れてみようか、と思った。あの空気から離れられなかった。山を降りて以来だ。この空気から離れたのは。

作者後書き
クロウとセリアの関係。そしてフェインにとっての空いた期間。
知らない姿を知ってフェインは何を思う。一体なんなのか。

シュンの一言:それは・・・恋だ!(マテ